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 私が常々言ってきたことだが、信念が知識と同一であるのは、それが(1)真であり、(2)確実であり、(3)信頼できるプロセスによって得られた場合である。しかし「プロセス」という語は極めて不十分である。推論をプロセスと呼ぶこともできるが、その場合でも「信頼できない」というのは間違った方法について言われることであって、一般に考えられているように偽な前提について言われるものではない。ある記憶は信頼できるプロセスによって得られた、と言うことはできるだろうか? 私が思うに、おそらく、[プロセスという語で、] 実際に起こったことと、その記憶を思い出すこととを結ぶ因果的プロセスを意味するなら、「記憶は信頼できるプロセスによって得られた」と言うことができる。それゆえ私たちは、信頼できるプロセスによって得られた信念は、信念ではない何かによって因果付けられているか、あるいは、真な信念を生むために多少なりとも頼ることのできる随伴物(accompaniment)を伴わなければならず、この因果の連鎖の中で、他の仲介的な信念が生じるなら、それらも全て真な信念でなくてはならない、と言えるかもしれない。

 例えば「テレパシーは知識か?」という問いが意味するのは、以下のどちらかである。(a)そうしたプロセスが存在するとして、それは、テレパシーを行なう人に真な信念を作り出すために信頼できるだろうか(ただし、これには幾つかの制限が要る。例えば、信念がテレパシーを行なう人の思考内容であるときに限る、など)? (b)私たちが不可知論者の場合、テレパシーを送られたという感情は真理を保証するのか? [テレパシーに限らず、] 女の直感とか、性格の印象などについても同じことが言える。おそらく(3)は、「信頼できるプロセスによって得られた」ではなく「信頼できる方法によって形成された」と言うべきである。

 しかしながら、私たちは確信がある場合はいつも、信頼性について省みることなく「私は知っている」と言う。だがもし [信頼性について] 省みるなら、自分の方法が信頼できると考えるとき、そしてその時に限り、私たちはその確信を保つべきである[1](ただしこれは、私たちが実際にそのことを知っている場合の議論である。もし知らない場合は、それを信頼できる方法で得られるとしても何も変わらない。例えば、「神が私の心にそれを持ち込んだ」というのも、一応は信頼できるプロセスではある)。なぜなら、その方法が信頼できるものであると考えることは、単に、その方法に従う習慣を不定的仮定文の中に定式化することだからである[2]

 もう一点付け加えよう。ラッセルは著書『哲学の諸問題』の中で「時に私たちが誤りを犯すことは疑いない。そのため、私たちの持つ全ての知識はある程度の懐疑に冒されている」と述べている[3]。ムーアは、「もちろん、ラッセルのこの意見は自己矛盾である」と言ってよく反論したものだ。しかしムーアの方こそ、ただの衒学趣味で、この場合の知識が何を意味するのか分かっていない。

 ラッセルの主張の要点は、実質的にはこうである。私たちは確かに、p かつ q かつ r かつ ・・・・・・ は真で、かつ、p、q、r ・・・・・・ のうち一つは偽であると言うことは、自己矛盾せずには不可能である(ただし、私たちは自分の知っていることを知っている、ということを前提とする。そうでないと矛盾にならない)。しかし私たちは、これらのうち一つが偽であるとほとんど確信しているが、同時に、これら全てが真であるとほとんど確信している場合もありうる。このような場合、[ラッセルによれば] p、q、r は懐疑に冒されているということになる。だが、必ずしもそれら全てが冒されているとは限らない、という点ではムーアが正しい。もっとも、もし私たちが、それらのうち幾つかは懐疑から免れていると考えるなら、[まだ懐疑から免れていない] 残りのどれかがおそらく誤っているのだ、ということはかなり明白になると考えるだろう。従って、同じ問題が残ってしまう。

訳註
[1] 「if, and only if」は、論理学における双条件法(biconditional)を示す言葉です。「iff」と略記されることもあります。「A, if and only if B」の日本語訳としては「AであるのはBであるとき、そしてそのときに限られる」という訳語が一般的なため、ここもそのように訳します。意味としては、「『方法が信頼できるものなら確信を持てる』かつ『確信を持てるなら方法が信頼できる』」ということです。

[2] 不定的仮定文とは、全称量化子によって束縛される変項についての条件法のことです。例えば「全ての人間は必滅である( ∀x( Hx → Mx) )」がその例です。「一般命題と因果性」(1929)における説明を参照。

[3] 『哲学の諸問題』第2章を参照。

 

著:F.ラムゼイ 1929
訳:ミック Copyright (C)
作成日:2003/12/01
最終更新日:2017/06/22 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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